コンテンツへスキップ

むなげやより愛をこめて

 仕事用の笑顔を張り付かせて、いつもと同じ流れ作業をこなす。レジを打ち終わり、お金を受け取ったら、ありがとうございますの言葉とともに精算済みかごを送り出し、また次のかごへ目を向ける。

 鶏肉のゲリラセールでジャンボパックをふたつも入手できるとは、なかなかの戦果だ、と顔を上げるとそこには、妄想してやまないヒーローふたりが仲よさげに立っていて一瞬息が詰まった。

「い、らっしゃいませ、ご来店ありがとうございますー」

 大丈夫、ギリギリ言えた。私えらい。商品のバーコードを読み取りながらチラリと盗み見ると、例によって例の如く、ふたりの距離感が近い。顔が近い。パーソナルスペースとは何だったか、という距離感に見ているこちらの胸が高鳴る。

 ジェノスさんがサイタマさんのことをいつも先生と呼び慕っており、ふたり分の食材を買って帰るため、同居の師弟関係であることはこの店の従業員の間では周知の事実だが、私はこのふたりはジェノサイだと思っている。これまでの腐女子としての生涯で、ナマモノを扱ったことはないが、平凡顔の強い師匠、顔面偏差値の高い年下の弟子、同居、とくれば妄想せずにはいられない。実際こうしてレジ打ちでふたりの様子を見たり、品出し担当の同志から売り場での様子を聞いたりしていると、妄想ではなく、そうなんだろうと、……おや、考えているそばから何かジェノスさんがサイタマさんに耳打ちを、あっ、いやいや待って何を言った、ねぇ今何を言った?!サイタマさん顔真っ赤にして出て行っちゃいましたけど?!店内放送と重なって全然聞こえなかった!気になる!!

 残されたのは、サイタマさんからエコバッグとがま口財布を押し付けられたジェノスさんと、レジ打ちを終えた私。

「……2592円ですー」

 なんとか金額を読み上げてジェノスさんへ顔を向けると、さっきとは別人かと一瞬混乱するほどの無表情だった。このギャップ!サイタマさん推しの店長や男性スタッフ陣は、このふたりを見て本当に師弟関係だけだと思っているのだろうか。店長達にはオタバレが怖くて聞くに聞けないが、今日の仕事が上がったら、この一連の遣り取りを同僚のジェノサイ仲間と語ろうと心に秘め、お釣りを渡して精算済みのかごを送り出した。

固定ページ: 1 2 3 4 5 6 7