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先生とコンビに

 今日の天気予報は曇り、夜から雨。
 のはずが予報が外れ、パトロール中に雨に見舞われて先生と二人で大雨の中を走っていた。

「くっそ、通り雨だと思ったのになー」

 白いマントの裾を掲げ持ち、頭を覆って走る先生の後をバシャバシャと足音を立てて追い掛ける。濡れたヒーロースーツが肌に張り付き、尻のラインが浮き出ているのが気になって仕方が無いが、幸いにもここは人通りがない。他の男にその肉体美を見られずに済んでいることに安堵を覚えて走る中で、先生の「あ」という声が聞こえた。

「ジェノス、雨止みそうにないし、あそこでビニ傘買って帰ろうぜ」

 先生の指差した方角には緑色の看板のコンビニが見え、その提案に返事をして店へと走る。

 コンビニの軒先で先生がマントの水を絞るのを正面から見ると、胸や腹の筋肉にヒーロースーツがぴったりと沿っており、これは人に見せて良いものではないと入店を止めようとしたが、独特の入店音とともにスタスタと店内に入っていってしまった。慌てて追いかけ、先生の姿が人目にさらされないよう死角を作る。

「うわ、一本しか売ってねぇじゃん。しかも550円か……」
「先生、これは俺が買ってきますので、先生はここで待っていてください」
「え? あ、うん」

 ざっと見回した限りでは店内に他の客はいない。店員に先生の性的な姿を見せることのないようその場での待機を求め、ラスト一本の傘を持って足早にレジへと向かった。支払いを済ませて先生の場所に戻ろうとして、直ぐそばのお菓子売り場で何やら物色しているのを見付ける。

 ――ああもう、この人は!こちらの気などお構いなしに直ぐウロチョロする!

 買ったばかりの傘の持ち手を握りしめ、すぐさま店員と先生の間に立って死角を作る。

「先生、買いましたよ。行きましょう」
「ん、おう」

 すぐに使うことを店員に伝えて買ったため、袋を取り外されているビニール傘を出入口前で開き、先生の方へと差し出す。先生の普段は隠されている肉体美が他の人間に見られるのは腹立たしいが、図らずとも相合い傘ができ、街中を堂々とこれほどの至近距離で歩けるのはラッキーだ。

 少し歩いてコンビニの駐車場を越えた辺りで、先生が俺をまじまじと見つめる視線に気が付き、何か用だろうかと首を傾げる。

「先生? どうかなさいましたか?」
「……お前濡れすぎ。そんなにこっちに傘寄せなくても大丈夫だって」

 先生の左側に立ち、傘を持つ右手を、グイと押しやられる。

「ああ、俺は機械ですので、濡れても何の問題もありません。しかし先生はお身体が冷えると風邪をひいてしまいますので」

 押された手を右側に押し返す。

「はぁ? お前だって身体冷えるじゃん」
「あっ」

 いとも容易く傘を奪われてしまった。俊敏さと強さでは敵わないと改めて実感する。先生の左手に移った傘は、俺と先生の丁度真ん中に掲げられた。

「つうか、お前が遠いから濡れるんだよ」

 先生が半歩、俺の方へと寄る。先生の右腕と俺の左腕が触れあう。滅多にないその行動に驚き右を向けば、顔を逸らしている先生の耳が少し色付いていた。

「――先生のそういうところ、俺、好きです」
「あっそ」

 ぶっきらぼうな口調だか、その優しさが雨水から俺を覆う。愛しさが溢れる。

 傘を打つ雨音。2人分の足音。間近の先生の息遣い。どうかこのまま、家に着くまでこの雨が上がらないようにと天に祈りながら帰路に就いた。

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