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The Yellow Pajamas

 22時前、サイタマ先生が見ているバラエティ番組が終わり、CMへと切り替わった。今日一日のまとめをノートに書き出している俺の正面で、片肘をついて寝転んでいる先生から「ふわぁ」と眠たそうな欠伸が漏れる。

「先生、もう良い時間ですし、先に風呂どうぞ」
「んー」

 のそりと先生が起き上がったのを見計らって、クローゼットから先生のタオルとパンツをお出しする。今日はこれにしよう、ハート柄のトランクス。可愛い先生によく似あう。それと、買ったばかりの夏物のパジャマ。

 最近の先生は長袖のパジャマが暑いらしく、器用にも寝ながらズボンを脱ぎ、前のボタンも開けてしまう。かろうじて上衣が引っ掛かっているものの、朝にはほぼパンツだけの格好だ。寝起きから先生の、感動を覚えるほどに美しく、国家の至宝とも言える素晴らしい肢体を見られるのは眼福だが、初夏とはいえ冷える日もあり、お風邪を召されないか心配だった。

 そんな折に通販サイトで先生にピッタリなイエローの半袖・半ズボンのパジャマを見つけ、衝動買いしてしまった。流石にここまでは届けてくれないため配送先を一番近い協会支部にして、俺宛の荷物が届いたとようやく今日スタッフから連絡があり夕方に取りに行ってきた。先生がいつも通りに何も持たずに風呂へと向かったのを見送ってから、袋を開けて中身を取り出し確認する。先生を象徴するかのような綺麗なイエロー。あぁ、これは絶対に似合う。間違いない。パジャマについていたタグを切り取ってから3点を手にして洗面所のすりガラスのドアをノックする。

「先生、タオルとパンツとパジャマ、ここに置いておきますね」
「おー、サンキュー」

 ぼんやりと見える先生の肌色のシルエット。見えそうで見えないこの景色には未だに少しドキドキしてしまう。

 置いたものの代わりに先生が廊下に脱ぎ捨てた服を手に取り、明日洗濯する予定の山に合流させる。デニムパンツは洗わないので、ポケットの中を確認してから折り畳み、クローゼットの定位置に置いておく。

 続いて机の上を片付けて、台拭きで拭き上げて壁に立てかけ、空いたスペースに二人分の布団を敷く。これで風呂上がりの先生にはそのまますぐにお休みいただける。床の上に無造作に置かれていた漫画、これはまだ未読だろうか。一応先生の枕元に置いておこう。

 いつものルーティンを終えたら、明日分のチラシチェックをしながら時間をつぶす。

 しばらくするとガチャリとドアの開く音が聞こえた。新しいパジャマにどのような反応を示してくださるだろうか。ドキドキしながらサイタマ先生が部屋に戻られるのを正座待機する。

 「ジェノスー、このパジャマなんだけど……」
 「はいっ、先生が暑いとおっしゃっていたので夏物に変えました!」

 声の方にバッと顔を向けると、半ズボンは履いてくださっているものの、上は裸のままで肩にタオルを引っ掛け、件のパジャマは手に持っていた。

「あのさ、新しいの買ってくれたのは嬉しいんだけどさ、……これ、女物じゃね?」
「えっ」

 先生が手に持ったパジャマをぱっと広げ、自身の胸にあてがってみせた。ゆとりがあるように作られているはずのものが、確かに少し小さく見える。――しまった、そういえばLサイズとしか確認していなかった。まさか女物だったとは。

「うーん、入るかなー?」

 俺の前にどかっと胡坐をかいて座った先生が、首を傾げながら黄色い服に袖を通していく。幸い半袖だったことと袖口のゆとりがあるおかげで、先生の腕が布地の中に収まった。

「これ俺、ボタン閉まらねぇ気がする」

 口をへの字に歪ませた先生が、下から順番にボタンを留めていく。が、先生の予想の通り、雄々しく逞しい、唯一無二の大胸筋が隠されることを拒否した。先生が小さく唸りながら生地を引っ張り、無理やりボタンを留めると、その胸が窮屈そうに存在を主張する。ああ、これは。なんという僥倖。

「ははっ、見ろジェノス。漫画みたいなことになってんぞ。これ俺が力入れたらボタン弾け飛ぶんじゃね?」
「――っ!ぜひ!お願いします!!」
「えっ」

 視覚情報はとっくに録画モードに切り替えている。さぁ、いつでもどうぞ先生!

「いやいやそんな、ダメだろ。もったいない」
「先生が着用された時点でどのみち返品不可です!折角なので!」
「えぇー……。普通に脱ぐ、っ」

 ブチッ、コン、コロコロコロ……。

 二人してその音の方を目で追う。先生が脱ごうと腕と胸を動かした拍子にボタンが弾け飛んだのだった。

「先生っ!すごいです、俺こんなの初めて見ました!」
「っぶ、あっははは!やべぇな、俺も初めて見たわ!」

 肩を震わせて笑う先生の胸元部分にはボタンがなくなり、谷間が顔を覗かせている。素晴らしい、なんて言葉では表現できない。しかし他の言葉も見つからない。

「先生の大胸筋は素晴らしいですね、はち切れそうです!ああ、そのお尻のようにふっくらとした先生のおっぱいを触ってもいいですか!?」
「えっ? は?」

 言い終わる前に正面の先生へとダイブして押し倒す。最高品質のやわらかい肉。先生はいつもいい匂いがするが、風呂上がりのため尚更いい匂いがする。主張の強い胸元に顔を埋めて、チュッと啄んだ。

「うぁっ、ちょ、風呂入ったばっか、っ」

 あぁ、数日前の俺、なんて良い買い物をしたんだ。まさしく先生のために作られたパジャマじゃないか!

 頭の中で自分自身を褒めながら、先生の熱く、そして厚い胸元に数えきれないほどのキスを夢中で落とした。
  

―終わり―

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